rhythmdesign井手氏

rhythmdesign井手氏

今回のプロジェクトのテーマは?

私たちは、この高宮センタービレッジで外部と内部を含めた全体のリノベート計画を担当しています。
この計画では、まず長期的な建物の改修計画案を作成し、それをベースとして、 「今、何をやるべきなのか?」と
いうことを段階的に進めていくことになっています。その中で、 「入居者のためのリノベート」というキーワードを
大前提に、今回の計画は進行しています。集合住宅のリノベートには、規模や用途による違いはありますが、
物件を所有するオーナーや建物の管理者、入居者の仲介者、工事を行う建設会社、そして私たちのように設計
を行う建築家など本当にたくさんの者たちがそれぞれの価値観を持ってプロジェクトに関わります。そのため、
この「入居者のために」というキーワードを同じ意識で共有するためには、想像以上のコミュニケーション(対話)
が必要でした。ただ、大きな方向性から、詳細な仕様に至るまでのすべてを、プロジェクトに関わる全者で決める
ことが出来たことは、この計画のとても大きな特徴だと感じています。ただ単に建物の見かけの美しさや格好良さ
を手に入れるためだけではなく、機能性や居住性を向上させるために、必要なものへ美しいデザインを施していく
ことで、この計画は出来上がるのです。

設計のコンセプトは?

リノベートの進め方には、大きくふたつの方針があると思います。ひとつは、既存の設備や仕上げをすべて一度
取り払って、前提条件を白紙にした上で新たに計画を行う場合。 もうひとつは、既存の設備や仕上げなどを
出来る限り活かして計画を行う場合です。 私たちは、その建物の状況やその後どれくらいの期間の利用を考えているかにもよりますが、既存の状態を新築する際のまっさらな敷地と同様な前提条件と捉えて、再度リノベート
が必要な状況をつくらないように、必要最小限のデザインを行いたいと考えています。 この計画でも、いかにして
つくらずに最小限のデザインで暮らしやすい状況をつくるか
、ということを考えました。

外部の計画について教えて下さい

高宮センタービレッジは、竣工してから約20年が経過しているのにも関わらず、必要最小限ではありますが、
メンテナンスを繰り返しながら、とても大切に維持されている建物です。そこで私たちは、既存のイメージを
壊さずに、最大限に活かすことを心がけながら計画を進めました。
[外壁について]
外壁タイル面は既設仕上げを尊重し、破損している部分・浮きが生じている部分のみを張替えています。また、
外壁塗装面は全面新たに塗装を施し、廊下に面した部分だけは、明度・彩度ともに、既存のものよりも明るい
色で塗装を行っています。それに併せて、共用廊下部分の照明計画の変更を行うことで、共用廊下部分の
安全性・防犯性の向上を図っています。
[エントランス・駐輪場まわり]
雨の日などでも駐輪場から建物までアプローチがしやすいようにと、駐輪場とエントランス部分に連続的に設け
た庇が、今回のリノベート計画の考え方を視覚的に表現し、新たな建物のイメージを特徴付けています。また、
エントランスホール前の階段を前面道路からスムーズに上がることが出来るよう、高さの変更を行っています。
[バルコニー側道路境界壁面]
この壁は、1階住戸の安全性を確保するための防犯用の壁です。 既存の壁面はコンクリート壁の上に有刺鉄線
が張り巡らされているもので、街並みに馴染んでいるというよりも、拒絶しているイメージの方が強いものでした。
今回の計画では、高耐久亜鉛メッキ鋼板という、見る角度によっては周辺の街並みを映し込んだように見える
材料で壁面をつくっています。この材料は、年月が経つにつれて、少しずつ色が白っぽく変化し、徐々に建物や
周りの風景に馴染んでいきます。
[室名プレート]
各住戸は、少し大きめのスチールプレートにさりげなく室番号が入っているだけの室名板を設置しています。
現在では、ワンルームマンションの室名プレートに自分の名前を掲示している人は殆どいないのではない
でしょうか? でも、間違いなくそこに人は住んでいる訳ですし、何かしらそこで暮らしている方々のキャラクター
がにじみ出てくるものがあったらいいなと考えています。利用の仕方は、入居者の方々の考え方次第です。

室内のデザインについて教えて下さい

小さな住空間では、手に触れる部分の仕上がりや感触、異なる材料が接触する部分のディテールなど、とても
些細なことが空間の印象に大きな影響を与えます。内部の計画では、新しくカタチをつくることや、新しく何かを
加えるとことはほとんどしていませんが、些細な質感の積み上げをとても丁寧に行うことで「柔らかく温かい、
肌触りのよい吸音的なもの」
を目指しました。それはあくまで全体のバランスの中でしか成立しない相対的で連続
的な価値観なので、空間を構成する部材それぞれが、実際に固いとか柔らかいということが問題なのではなく、
空間体験の総体として受け取る印象がどうであるのか、ということです。