『福岡 KYOYA薬院ビル リノベーションプロジェクト』

~市民の原風景が次世代の原風景に~
2009年1月18日


[ 企画および総合プロデュース ]
吉原住宅 有限会社/株式会社 スペースRデザイン
代表取締役  吉原勝己


 福岡の都心部でオフィスビルおよび賃貸マンションの所有管理を43年間おこなってきた吉原住宅
有限会社は、2004年以来経営の変革を目指し、社内外物件で16件のリノベーションのプロジェクト
デザインをおこない、その結果60件以上の空間プロデュースにかかわってきました。
その中で、私たちは多くのことを学んできました。

 福岡には古くて今は見捨てられていても魅力的な建物がたくさんあること。
それらの建物に手厚い愛情を注ぐとそこに引かれる人たちが出てくること。
そしてそこに集まる人たちは、そのまちにとって大切な人たちになること。
そうすると、その建物はまちにとって必要な建物になること。

その私たちに、新たな転機が訪れたのが2007年2月でした。

 このビルのオーナーである株式会社京屋の堀社長とお会いさせて頂き、京屋本社ビル再生に挑戦する
チャンスを頂いたのでした。


 私も地元民として少年時代からこのビルを知っているうえに、京屋ビル向かいの薬院「ボンラパス」には
よく買い物に行っており、いつも印象的に思っていたのは、四つ角に面した1Fの大きなガラスの空間と、
ふらふらと思わず登ってしまいそうな魅力的なラセン階段でした。そのうえにデューディリジェンス調査の際、
随所に散りばめられたビルが持つチャームポイントに驚いたことを覚えています。
 また、社長の建物への思いと、80年続く会社とまちとの関係、社員さんたちの仕事への情熱をお伺い
するうちに、この建物を生かしたいという気持ちがより深まっていきました。

 築35年であるために、当然のことながら大手デペロッパーによる建替え案との比較となるうえに、創業
80周年の記念事業ともなる本社ビルを扱う重大な案件であり、万全の体制を構築しなければなりません。
 私たちはいつもの手順としてプロジェクトをデザインすることから始めました。何しろこの領域には参考に
なる前例がほとんどありません。
 しかし、築30年~50年の物件を試行錯誤で再生したなかで見出したデータと仮説をパズルのように組み合わせた時に出てきた結論が今回のプロジェクトデザインでした。そして、私たちのビル再生の思想


 『優良なストックビルは、まちを想うオーナーにより、30年以上維持されるべきであり、ビルのユーザーは
クリエイティブクラスの人々である。』


 ここから、ビルオーナー・ビルユーザー・プロジェクトメンバーの3者が満足できるバランスを見つけ出す
ための仮説を組み立てていきました。その結果、2007年時点の本件の最高のコラボレーションチームとして


・設計    :   リズムデザイン   井手氏
・リーシング :   ひかり生活デザイン 春口氏


 をプロジェクトメンバーにお迎えし、最高のパフォーマンスを発揮したいと考えました。

それからの当社の立場は「KYOYA薬院ビル再生プロジェクト」の企画およびプロデュースの総括者として、
新たなフォーマットを作り上げるために、これまでの経験をつぎ込みながら、新たな発見を見出しながらの
道のりの長い作業となりました。


□本社機能を移転すべきか、現ビルで稼働させるべきか?
□1Fは本社が使うのか、貸し出すのか?
□その場合の1Fテナントのイメージは?
□耐震補強をどこまでおこなうのか?
□各室のデザインはどのようなものか?
□どのような入居者さんなのか?
□どのように募集をおこなうのか?
□その賃料はいくらなのか?
□そして費用とスケジュールと実質利回りはどうなるのか?
□結論として、建替えより優秀なモデルとなり得るのか?


 多くの問題や課題が浮かび上がるたびに、オーナーおよびプロジェクトチームが選択と判断の中で、
迷った時に必ず戻る思いは


 「どうしたらこの建物が30年後(築65年)この地のランドマークとして元気よく活躍しているのか」

そこに、チームメンバーの経験が裏付けとなることでロジックが積み重ねられました。


結果として、賃貸ビル一棟のリノベーションにおいて今回得られた知見は


□ビル一棟リノベーションは建替えに比較し経済的メリットが大きいこと
□入居しながら、賃料を得ながらでも工事可能であること
□福岡の民間賃貸ビルでも耐震補強は身近な存在であること
□工事中に満室になることが可能なこと
□賃料は新築と競合できること
□入居者さんがとても素敵な方々であること
□このプロジェクトデザインはオーダーメイドのため他案件での安易な再現は難しいこと
□そして最後にリノベーション事業はそれにかかわるすべての人たちに発想の転換をもたらしイノベーション(革新)の思想をOJTとして共有体験できること。そのためにプロジェクト終了後のメンバーたちは夢に近づく確立が高まること。(それは、ビルユーザーにも当てはまります)


 最後に、新築も良いのですが、現代の大量生産される建物ではもう生み出せないデザインやストーリーを
ストックビルを用いてブランディングすることは、環境の時代にも関わらず建物が使い捨てられている現状
において、唯一警鐘を鳴らすことの出来る手段だと思います。


 しかし復活させるだけではなく、収益物件として稼動させてそれを継続する。その仕組みをデザインしていくこと。それが当社の役割であり、得意分野でもあります。


  株式会社京屋というブランドをさらに活性化するために選択された歴史を残すリノベート。住まいと仕事のちょうど良いバランス。いわばそれが「薬院ライフスタイル」となり、その「薬院ライフスタイル」を発信する建物
を、私がそうだったように、次の世代の誰かの原風景になって欲しいと願っています。

京屋の皆様、入居者さん、プロジェクトメンバーの皆さん、そしてかかわって頂いた皆様。今後も進化を続け
て参りましょう。


2008年12月、薬院にビルストックで創られる新たなまちの歴史がスタートしました。


(※本プロジェクト進行中の2008年4月1日、ビル再生業務に特化するために、ビル再生企画・コンサルティング・リノベーション
施工・オンリーワン物件の仲介・HP作成事業の「株式会社スペースRデザイン」社を設立しました。そこで本プロジェクトは、現在
は吉原住宅から移管され新会社の業務として稼働しております。)

(KYOYA薬院ビル   福岡県福岡市中央区薬院1丁目8番20号)